こんにちは、辻椀木地木工芸の辻真澄です。
普段夫で木地師の辻まさたかのサポートをしたり、WEBやSNSを更新する業務、そして工場の横の自宅の一室で自然食品店をしています。
今日は、夫の辻まさたかと、今後の輪島塗について考え議論する機会があり、その内容をまとめてみることにしました。
辻椀木地木工芸としての考えを明確にしておくことも大切だと考え、ブログにまとめました。
議題は「輪島塗職人の増加と安定した生計を立てるためには」という
突っ込んだ内容になっております。
職人が稼ぐためにはまず「生産性を上げるためにどうするか」と議論されがちなのですが、
「そもそも生産性を上げないといけないのはなぜ?」と、私が夫に疑問を投げかけたことが、このブログを書くに至った経緯です。
いろんな考えがありますので、異論もたくさんあると思いますが
一考えとして読んでいただけたら嬉しいです。
生産性を上げることは本当に重要か
輪島塗を議題にしたときに、たびたび「生産性を上げるためにはどうしたらよいか」という議題が持ち上がりますが、まず本当に生産性を上げることが重要なのかを考えていきたいと思います。
輪島塗は他の漆塗り製品と違って工程が多く分業で行われます。そのため、一人の職人が欠けても製品が作れないと言われています。そんな中、一人の職人にかかる負担は大きく、現在の従事者は今ある仕事を精一杯されていて、休みが少なく賃金が低いのが現状ではないでしょうか。
そんな中で生産性を上げるというのは職人にとって重要なのでしょうか。
職人の現実
輪島塗職人の実状は以下のように考えられます。
- 賃金が安い(単価が安い)
- 依頼主(塗師屋さん)と賃金の交渉ができない現実がある
- 職人の減少により一人の職人に対して負担が大きい
- 手仕事のため、作業量に限界がある
- 機械化が難しい
- そもそも「手仕事」に価値があるため機械化はしない方が良い
上記のように生産性を上げる以前に賃金自体が安く、手仕事のために生産性を上げることが難しい現実があります。また、手仕事に価値があるため機械化にする必要性はないと考えます。
職人が足りないのは収入が低いから
輪島塗職人が増えない、減少傾向にある原因は「収入が少ないことで未来が描けない」からです。
労働時間が長く休みが少ないのに収入が少なく、保障もない(輪島塗従事者が多い輪島市民は国民健康保険加入者がとても多い)。
基本的には弟子入りしてから独り立ちするため、職人になり食べられるようになるまでにも何年もかかります。そのため所帯をもつ、子供をもつなどを諦める人も多いです。
そのような理由で、輪島塗職人になっても安定した暮らしができないために、職人になるという選択肢自体が無くなっているのが現状です。
かといって、収入を上げるために生産性を上げようとするのは、「今よりもっと働け」と言っていることと同義語なので「人間的な生活を送れなくなる」だけです。
そうなるとますます輪島塗の仕事をする人は減る一方でしょう。
職人が不足しているのは、そもそもの賃金が低すぎるのが原因なのです。
生産性を上げずに賃金を上げるには
まず、生産性を上げるための議論はなんの意味もないということがここまででわかっていただけたかと思います。
そこで、本来やるべき施策は「生産性を上げずに職人の賃金を上げる」ことなのでは?
という考えに行き着きます。
賃金が安いのなら賃金を上げる必要があります。シンプルです。
生産性を上げる必要はありません。生産性を上げたいのは「売る側」の考え方だからです。
職人さんはすでに目一杯働いているのだから、それに見合った賃金を支払うべきだし、見合った賃金を請求すべきなのです。それで全て解決します。
現在は物価高で、最低賃金も年々上がっています。労働力への対価ももちろん値上がりすべきなのです。
それなのに実状は輪島塗職人への労働力への対価は上がっていません。
そこを大問題として捉えるべきです。
売値を間違えている
労働力に対する対価が安いなら、なぜその対価は間違ったままなのでしょう?
現在の輪島塗製品、例えば「お椀1個」があるとして、
現在の考えられる「お椀一個」を作るのに適正な上代と下代が設定してある前提で、職人に賃金が支払われている状態を想定します。
(※塗師屋さんが原価にかなりの%を上乗せしている場合は論外ですので、その限りではありません。)
上記の前提があった上で「賃金が上がらない原因は何なのか?」を突き詰めていくと行き着く答えがあります。
輪島塗製品の「上代が低すぎるのでは?」
ということです。
そもそも売値を間違っているのです。
全ての材料費と送料、人件費が上がっている時代なのに、輪島塗の職人の工賃が何十年も変わっていないのはおかしなことです。そこの改善がなされておらず、その分の金額が乗っていない売値で市場に出ていると考えられます。
輪島塗は確かに「高い」ですが「高い理由」があります。
なのに、その理由を見ずに「安く市場に出す」を選択してしまうと職人に適正な賃金が支払われません。
それが今現在起こっていることです。
ではなぜそんなことが起こるのか?
売る市場を間違えている
これまでの考察で考えられることは、「値段を上げない、上げられない現状がある」ということと、「買う側が適正な価格では買えない」からということだと考えられます。
ということは、「売る市場」を間違えてしまっているということがわかります。
どう間違っているのかを以下にまとめました。
1. 「売る人」を間違っている
まず、現在の日本は物価高と税金の高騰、それによる不景気の負の連鎖が起こっています。物価が上がり続けているのに日本人の所得は30年間横ばいという現実があり、現在の日本の政治を見ても向こう数十年景気が回復する見込みはありません。
ということは、日本人が輪島塗という高価なお椀を日常使いするというのは一般的に考えられません。
売る相手は「日本人ではない」か「一部の高所得者の日本人」ということになります。
そしてもう一つの選択肢は「外国人」です。
2. 「売る場所」を間違っている
「1」にあるように売るべき対象者は「一部の高所得者の日本人」と「外国人」と考えられます。
ということは、現在インバウンドで「日本に旅行に来ている外国人に向けて販売する」「W E B上の海外市場に向けて販売する」など海外市場に向けて売っていくのが現実的です。
今までのように「日本人に向けて日本の市場で販売する」を続けていても市場は縮小するばかりと考えられます。
3. 「売るもの(作るもの)」を間違っている
これまでの考察で考えられることは、「売る市場」を間違えてしまっているということですが、「1」「2」で考察した通り、海外市場に向けて売ることを考えたときに、日本人のニーズと外国人のニーズの違いがネックになることが考えられます。
そして、市場が変われば求められるものも変わるため、「作るものを市場のニーズに合わせる必要」があります。
適正な市場で価格を上げる
上記のように、「どこで」「誰に」「何を売るのか(作るのか)」がとても重要になります。ですが、今現在そのことが議論されているのをあまり見ることがありません。議論の論点がずれている事がわかります。
「適正な市場で適正なお客様に売るのであれば価格は上げられる」ということです。
商品の価格を上げればいいのです。
そしてその分を職人に還元すればいいのです。
輪島塗の価値を上げ、職人へ還元すべき
「輪島塗は高い」とよく耳にしますが、本当でしょうか?
輪島塗の工程をしっかり理解し、文化を理解した時本当に高いと思うでしょうか?
継承されてきた技術の価値がわかった時、本当に「安く買いたい」と思うでしょうか?
輪島塗の価格を下げることは輪島塗の価値を下げることです。
同じく生産性を上げ、職人たちに今より労働してもらうことで現在の価格を維持することも、輪島塗の価値を下げることと同じです。
本来は「職人の仕事量を減らし」→「生産量を減らし」→「単価を上げ」→「付加価値を付ける」
これこそが今やるべく施策のはずです。
「職人に今すぐ還元する」ことをやることが大切です。
今より働いてもらうのではなく、少なくとも今の仕事量のままで今すぐ還元するのです。
でないと輪島塗の未来はありません。
未来の職人を増やすには
何度も言いますが、輪島塗職人が年々減っているのは
- 賃金が安い(単価が安い)
↓
- 家族を養えない
↓
- 社会的地位が低い
↓
- 子供や若い人がやりたいと思わない
というようなループが何十年もかけて構築されたためです。
その逆をするためには「賃金を上げる」しか解決方法はありません。
- 賃金を上げる
↓ - 稼げる、未来が描ける
↓ - 家族を養える、子供を持てる
↓
- (本人や見ている人が)夢や希望が描ける
↓
- 子供に継がすことができる
↓ - 若者が職業の選択肢に入れる事ができる
根本的なことはこのような順番でしか解決はしません。
先に述べたように、それらは
・適正な市場で適正な価格で売ること
・今すぐ職人に還元すること
で実現する事ができます。
今考えるべきこと(まとめ)
輪島塗職人を増やすために今すぐやるべきことが「適正な市場で適正な価格で売ること」と「今すぐ職人に還元すること」という前提で、これから何をすべきなのかそれがとても大切です。
「海外市場」という一例を出しましたが、ではその海外市場は具体的にどこなのか、どんなマーケットなのか、W E B上なのか、リアルな海外のお客様なのか、海外のお客様に輪島に来てもらうのか‥そしてその人たちに何を売るのか、など。
今後はペルソナ設定とニーズの把握、商品開発が必要となるでしょう。
そしてその議論は「適正な市場で適正な価格で売ること」と「今すぐ職人に還元すること」という前提でのみ、行われるべきだと考えます。
以上が、私 辻真澄が夫で木地師である辻まさたかと議論して「辻椀木地木工芸」としてまとまった考えです。
もちろんこれ以外の考え方は多数あると思いますので、
一例として参考にしていただけたら嬉しいです。
辻椀木地木工芸
辻 真澄






